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Yesoensis

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 かつて蝦夷地は原始の森に覆われ、山野には満ち溢れるほどのエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)たちがいたという。アイヌ民族はシカを狩ると、肉は貴重な食材として、毛皮や皮革は衣類として活用した。蝦夷地が北海道と命名された150年あまり前から開拓が本格化すると、エゾシカは乱獲され、大雪による大量死も重なって一時は絶滅の危機に瀕した。以来、数が減れば禁猟になり、頭数が回復すると猟が解禁となり乱獲されるという繰り返しが続いた。

 

 近年では、シカの数が増えすぎたと言われている。生息域が拡大し、エゾシカは市街地にも出没するようになった。いわゆる「アーバンディア」たちは、猟銃の使用が禁じられている住宅地を悠然と歩き、連れだって道路を横断する。観光客たちは車を止め、めずらしげに写真を撮るが、北海道ではシカは害獣だ。多くの地域で、シカは農作物や樹皮を食べる害獣とみなされ、冬季の狩猟に加えて、有害獣駆除が通年で実施されている。北海道によると、2022年の道内でのエゾシカの推計生息数は約72万頭である。一方、2022年度には狩猟と有害捕獲により14万頭以上のシカが捕らえられた。

 

 同じニホンジカでも奈良のシカは神の遣いとして大切に扱われ、天然記念物に指定されている。人の決めた境界線の中では鹿せんべいを与えて愛玩し、その外ではシカを害獣として駆除するのは、人間たちの都合だ。ある意味、シカたちは人間の矛盾を映す鏡のようだ。だが、当のシカたちは野生の本能に従い、人の営みに適応しながら暮らしている。角切りをされることなく、立派な枝角をいただいて、北の大地に生きるエゾシカたちは美しい。

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