top of page
鹿の惑星
2011年3月、久しぶりに奈良を訪れた私は、カメラを手に早朝の街に出た。そこで見かけたのは、ホテルの前で角を突き合わせて戦う雄鹿や、交差点の真ん中に凛と立つ鹿のカップル。人影まばらな街で威風堂々とふるまう彼らは、街の主であるかのように見えた。
神護景雲元年(767年)、平城京鎮護のため春日大社の祭神に勧請された武甕槌命(たけみかづちのみこと)は鹿島神宮から白鹿に乗って御蓋山(みかさやま)に来られたという。以来、奈良の鹿は神の遣いと呼ばれ、天然記念物として保護されている。一方、北海道をはじめ多くの地域で、鹿は害獣とみなされている。
鹿が棲息地によって天然記念物として保護されたり、害獣として駆除されたりするのは、人間の都合だ。ある意味、鹿は人間の矛盾を映す鏡のような存在でもある。だが、鹿たちは人間が引いた境界線を軽やかに越え、たくましく生きている。そんな姿をレンズ越しに見ると、そこには「鹿の惑星」が広がっている。
bottom of page